「論文」  夫婦間不和・離婚が与える子への悪影響

作成者  カウンセラー 木下ゆか

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この論文は私個人が作成したものであり、引用する場合は必ず当方の「HPアドレス」と「カウンセラー木下ゆか」を明記下さいませ。明記をもって、引用可とさせて頂きます。

 

 

要約

 

「赤ちゃんの脳は呼吸、心拍、食欲などをつかさどる脳幹と、危険や不安を察知する扁桃体と言われる場所だけが完全にできて産まれる。」1)それ以後の脳の発達は、全部世話をする人と環境から決まる。子どもにとって父親も母親も大切な愛着の対象で、そのふたりがお互いに対立、または疎遠になっている状態は、子どもの「安全な基地」を奪う事になるばかりか、両親に対しての心配や不安が生じていると、子ども自身の悩みが生じた際に打ち明けられる人がおらず、一人で悶々と悩みを抱え、過大なストレスを与えてしまう。その結果、肉体的・精神的成長を妨げる事がある。子どもの脳への悪影響として、両親間のDVを目撃した子どもの脳は、見ていない子どもの脳に比べ、脳の萎縮がみられ、神経活動も過敏になり、学力や記憶力の低下が見られた。家庭不和、離婚家庭の子どもへの影響として、反社会的行動や身体的障害を産み出す事も挙げられた。

離婚については、離婚が子どもに即影響するというよりも、離婚する以前に、家庭要因が、離婚等の家族解体の中ですでに作られていると考えられる。離婚に直面した子ども達の中には、当時は親の離婚を受け入れられずにいたが成長するにつれ、肯定的に受け止めている子どもも多数いた。青年達が同じストレスの生じる境遇に陥っても、そのものの環境条件、青年自身の内的条件によって異なってくる。家庭不和や離婚から生じる葛藤に対して、きちんと自分なりに受け止めて前進する子どももいれば、葛藤に呑み込まれて、不適応に陥る子どももいる。どちらへ進むかは、子どもの家庭生活が調和のとれているものであるか、親がどのような生き方、あり方を子どもと共に築くかという姿勢や、子どもの自我の強さによって左右される 。

「自我」をもつ時期、青年期に直面する3つの主要な課題として、学習面での勤勉さ、両親からの自立の増大、仲間との親密さの確立というもが挙げられる。青年期に達して、こういった課題に直面するにつれて、子どもは過去からの経験という遺産を身につけ、それが現実の問題の解決法を決める事になる。

 

キーワード:夫婦間不和 離婚 発達障害 自我 青年期 脳

 

 

目次

 

 

はじめに 

 

第1章       夫婦間不和・離婚が与える子どもへの影響

 

(1)子の発達への影響

(2)脳と子どもの発達

(3)発達障害と愛着障害

 

第2章       子どもの視点からの離婚

(1)離婚してプラスになったこと・マイナスになったこと

(2)子どもは親の離婚をどのように受けとめているか

(3)子どもは親の離婚をどのように乗り越えてきたか

 

第3章       今後の課題

 

終わりに

 

引用文献

 

参考文献

 

 

 

 

はじめに

 

今や3組に一組が離婚をする時代なっているが、その背景には恋愛結婚の増加や核家族化の進行、そして時代の進歩に伴い離婚に対する意識の変化がある。恋愛結婚では、見合い結婚と異なり、出身階層、生活習慣が異なるもの同士の結びつきが多くなり、結婚や家庭生活についての期待・イメージにズレが生じやすい。核家族では夫婦間に不和・葛藤が生じたとき、両者のあいだで緩衝的役割を果たすものがいないので破局にいたりやすい。また、昔に比べ物が豊かになったせいか、結婚相手に対しても「満足できなければ離婚すればいい」と考える男女が増加している。

 

私は現在、夫婦・離婚カウンセラーの職業に従事しており、夫婦間の事や離婚について悩んでいる人から相談を受けているが、中でも私が最も気になっている点は、夫婦間が冷え切った状態、離婚を考えている両親の子どもの多くになんらかの問題が生じているケースが多い事だ。幼少期であれば発達障害、青年期になると不登校等、様々なケースが高い割合で見受けられる。そこで夫婦間不和や離婚が与える子への悪影響について考えて見たい。

 平成22年の離婚件数は251000組で、前年の253353組より2353組減少した。離婚件数は昭和39年以降毎年増加し、46年には10万組を超え、その後も増加を続け、56年をピークに減少に転じ、平成3年から再び増加し、平成14年の約29万組をピークに再び減少傾向にある。2)

 

(図省略) 

1 離婚件数及び離婚率の年次推移

(引用 厚生労働省 「人口動態統計年間推移」 2010年)2)

                          

離婚の増加と共に家庭裁判所で行われる夫婦関係調整調停の需要も増加している。

夫婦関係調整調停とは、離婚を目的とする離婚調停ともつれた夫婦間の解決(婚姻継続)を目的とする円満調停の2種類がある。大半が夫婦間の離婚話のもつれから第3者の調停員を介して解決の糸口を見つけるための離婚調停が主であるが、中には円満を目的として行われる円満調停もある。いずれも夫婦の一方が申立てをし、月に1回程度、第3者の調停員を交えて話し合いが行われる。

過去5年の全国の家庭裁判所の夫婦関係調整調停の数字(申立人の数字)を見ると、平成1765,340名、平成1865,170名、平成1965,260名、平成2066,477名、平成2168,156名で、毎年13万人(65千組)以上が家庭裁判所を利用している事がわかる。この調停システムを利用するにあたっては、1200円分の印紙と戸籍謄本があれば誰でも利用が可能であるため、年々利用者は増えている。夫婦間で解決できればそれが一番であるが、夫婦間での問題が拡大し、解決の糸口が見つけられないのであれば、この調停システムは費用もあまりかからないため大いに利用してみる価値もあるであろう。

 厚生労働省が離婚について「離婚家庭の子ども」をテーマに平成9年6月に親権を行う子どもを有して協議離婚した者を対象に離婚前後の子育て環境の状況調査3)を行った。離婚についての悩みは「子どものこと(図2)」で夫69.6%、妻66.8%が、離婚に生じる悩みのトップに挙げて、子どもの悩みの内訳は以下に分類される。

 

(図省略) 

2 子どもに関する悩み

(引用 厚生労働省 「人口動態社会経済面調査からみた離婚」 1997年)

 

第1章    夫婦間不和・離婚が与える子どもへの影響

 

ドキュメンタリー番組「乱の春負けるなSP 漂流少女のある決心」4)で、高校2年生の少女が、一人で渋谷を歩き回っている様子とインタビューが放送された。彼女の家は、毎日夫婦喧嘩で疲れるだけの場所となり、自分の居場所がない。そのため渋谷に来て一人であてもなく歩くことによって心が落ち着き、その後自宅に帰るという内容であった。子ども自身、半分は母、半分は父に属するため、その両方が争うことは、自分が悪く言われているのと同じダメ-ジがあり相当なストレスがかかるので、本来は心癒されるべき場所の自宅が、ストレスの場となってしまうのである。問題のある家庭では、両親は子どもの目の前で争うだけでなく、自分達大人の喧嘩に子どもを引っ張り込むことがある。子どもにどちらか一方の悪口を言ったり、一方の味方になることを強いたり、夫婦の溝を埋めようとして子どもに干渉しすぎる親もいる。子どもをこういった方法でおとなの関係に巻き込むとき、親は、本当は大人同士で解決すべき問題に子どもを無理やり参加させていることになり、その家庭では子どもが夫婦それぞれの感情のはけ口となってしまう。アメリカの哲学博士ジョエル・D・ブロック氏と心理学博士スーザン・S・バーテル氏は、両親の争いに巻き込まれた子どもたちは、「うつ病、不安、成績低下、社会的不適応、引きこもりや家出といった数多くの深刻な問題を抱える危険性が高くなる」5) と述べている。

親は自分の悩みでいっぱいでいると、自分の意見を通す事や、自分を否定されたという怒りの感情の処理で手詰まりになり、夫婦の問題に子どもを引っ張り込んでいるという事実にも気づかない。このときに子どもに悩みが生じていても、それに気づいてあげる事も難しくなる。子どもは自分の不安を受け止めてもらえる相手も環境も家庭内には存在しない。その過程で子どもはますます不安になり、悲しみや敵意を抱くようになる。幼い子どもの場合は、混乱し、ストレスを溜め込み、学校の成績は下がり、社会生活にも支障がでる。年齢が上になると、抑うつ状態になり、家族と口を開かなくなったり、お酒やドラックに手を出したり、悪い仲間と付き合うようになる。

そうした子ども達が家庭を持つと、自分が知っている特定のパターンを繰り返すことが心理学者の中では言われている。私達は自分の過去に起きた未解決の問題をそのまま引き継ぐのだ。つまり私達が奮闘している問題は、私達が育った家庭にその根があると考えられている。

一方、離婚についてはどうであろう。離婚が子ども達に与えた影響として、昭和57年に離婚により養護施設で暮らさなければならなかった子ども達を対象に「離婚が子どもたちに与えた影響」への調査6)が行われた。この時代の離婚背景は現在と異なり父子家庭が多く、食事の世話、衣服の用意、学校生活など日常生活苦により離婚後養護施設へ入所するケースが見られた。現在の母子家庭の多い社会背景とは若干異なるが、子どもに与えている影響への調査として興味深いものがあるので紹介する。但し、離婚の結果、親子分離の状況が子どもたちにとって好影響を与えるか、あるいは悪影響を与えその結果から何らかの障害をもたらすかは離婚という事態に遭遇した親の態度と対応如何にかかっているといえる。また同時に離婚時の子の年齢やその後の経済状態などによっても違い、養育を継続できる様々な要件によっても異なってくる。

調査に挙がった問題症状には、反社会的行動と非社会的行動があり、反社会行動とは非行的行動であり、非社会的行動とは情緒などの発達延滞や自閉的行動など種々の障害を引き起こす行動である。年齢によって問題の傾向が異なり、中学生は反社会行動に上位から「金品持ち出し」、「万引き」、「無断外泊」、「不順異性行為」、「シンナーの吸引」、という問題が最も多く、続いて小学生は「学力延滞」「自閉・緘黙」「排泄障害」の順で症状が多く、未就学児においては「排泄障害」「自閉・緘黙」「チック」の順で問題が現われる。高校生になると、全体的に「問題数値」7)が極端に低い。未就学児、小学生、中学生で共通する項目は生活難、親権者・非親権者への不信、兄弟分離による不信が挙げられている。 

また、拒食、過食をはじめ、虚弱体質、病弱、栄養障害、身体的発達の遅れなどが報告されて、不安症状が身体的発達への影響として現われているとも言えるようである。

女子少年院の女子の非行の数字でみると、軽度の場合は実父母率が高いが、心の傷の深い重度の施設の場合、実父母率より、単身または再形成家庭率が高いのも離婚にからむ家族の解体状況が児童の心に負担を負わせ問題行動に走らせているのではないかと推測される。

離婚即非行と言えないまでも、それに至る過程の人間関係の冷たさが非行に走らせる要因となっていることが伺える。小学生、中学生の学校生活では家庭の安定が第一要件であることを考えると、家庭不和から離婚に至る過程は子どもたちに最も大きい影響を与えることは必至である。

 

第2章    子どもの発達への影響

 

子どもが直面する発達課題として、幼児期においては身体的、就学前の数年間おいては、身体的と情緒面、学童期においては知的面と情緒面、青年期の初期では、知的面、身体面、情緒面が挙げられる。子どもが身体的な世話と情緒的満足を親に最も依存している時期に明らかに親子関係は最も影響を及ぼすであろう。

不和家庭や離婚家庭の子どもが、こういった人生の発達順序を通り抜けていくときに明らかにすると思われる特殊な諸問題はなんであろうか。

(1)脳と子どもの発達

脳の研究家である元北海道大学の澤口俊之先生は、「こころとは機能する脳のことである」と述べている。例えば、悲しいときに心臓が痛むのは、脳が血管を収縮させて心臓に痛みを感じさせるからである。喜びや優しさ、思いやりなどを行動に移せるのも、脳が指令しているからである。子どもの脳は、親や保護者との安定した愛着の絆によって発達が促され、反対に虐待や放置、慢性的なトラウマ、愛着障害によって、正常な発達が阻害される。

「赤ちゃんの脳は呼吸、心拍、食欲などをつかさどる脳幹と、危険や不安を察知する扁桃体と言われる場所だけが完全にできて産まれる。」1それ以後の脳の発達は、全部世話をする人と環境から決まるのです。乳児の時に、泣いて不満状態を知らせたのに、授乳したり、おむつを取り替えたり、ホイホイとあやしてくれたりする世話人がいないと、脳幹での調節が上手にできず、そのうえ扁桃体が興奮しすぎて、不安感だけが発達し、人間として生きるために発達させなければならない大脳が十分に育たない。このような子どもは、成長するにつれて、「不安感」「危機感」から人を攻撃するようになったり、自分を傷つける事で生きている事を確認したりするようになる。映像や図形を認識したり、芸術的な活動をする右脳に対し、左脳は対人関係にはかかせない言語機能や共感能力を読み取り大人たちと意味のある相互関係を築くことで発達していく。幼い子が怒ってすぐに暴力を振るうのは、怒りを言葉で表現する左脳が育っておらず、右脳だけで反応しているからである。成人になっても、言葉よりも先に手が出てしまう大人が最近増えてきているように感じるが、左脳の発達が弱いという要因も考えられる。

子どもの脳への悪影響が紹介されていた新聞記事8)によると、 子どもの頃に両親の家庭内暴力(DV)を見て育つと、脳が萎縮し、脳の発達に悪影響を及ぼすことが分かった。内容は、3~17歳時に自身は虐待を受けず、日常的に父親が母親に殴るけるなどの激しい暴力をふるう姿を目撃した18~25歳の男女15人と、虐待のない家庭で育った33人を選び、MRIで比較した。その結果、目撃経験者は目からの情報を処理する右脳の「視覚野」の容積が、目撃した事の無い人に比べ平均20.5%も小さい事がわかった。 視覚野の血流量を調べると、目撃経験者の方が8・1%も多く、これは神経活動が過敏になっている特徴だという。学力や記憶力も調べたところ、目撃経験者の方が低い傾向が出た。暴力を目撃する事も心的外傷を与えるとして、医学的に裏づけられており、児童虐待防に当たるとされている。子どもへ「心的外傷」を与える点では、両親の争いが暴力のみに限られた事ではないはずである。

子どもの脳への影響は、妊娠中の胎児期から既に始まっており、「母親の心的反応で体内に緊張ホルモンがたくさん分泌され、これが胎児に直接降りかかることにより、胎児も緊張し、不安・恐怖に敏感になる。」9)そして、乳幼児期の子どもにとっても、父親と母親が喧嘩するのを見るのは、自分の「安全の基地」をなくす出来事となる。日常的に、または継続して、繰り返し受けた乳幼児期と学童早期の外傷的出来事を慢性反復性トラウマという。例えば、放置や虐待、両親または保護者間の家庭内暴力の目撃、保育園や学校でのいじめなどで、子どもがもっとも必要とする「安全の基地」が奪われ、「誰にも助けを求められないもっとも無力の状態に長期的に置かれる出来事である。これは子どもの脳と肉体の発達に悪影響を与え、慢性反復性トラウマが子どもの脳と肉体の発達に悪影響を与え、人格障害を引き起こす。」10)そして、成人になってのうつ病の最大原因となるともいわれている。  

(2)発達障害と愛着障害

妊娠中、あるいは子どもがごく赤ん坊の時期に、母親が結婚生活の破綻で、ひどく憂うつになり悲しんで情緒不安定になると、子どもにふさわしい母親の役割を果たす事ができなくなる。子どもにとっては身体面でも情緒面でも最も面倒をみてくれると思われる人が存在しなかったり、母親から与えられる子どもの経験の質と量とが不十分であると、食事をとったり、睡眠したり、排泄する仕方にも障害が起こってくる。子どもは極度にイライラして、あやすのも難しくなると同時に、ゆさぶり、指しゃぶりといったような身体的満足に頼るようになって、憂うつで、恐らく酷い罪悪感を持っている母親を刺激することになるであろう。「極度の母親喪失は結果的に、『発育不良』といった医学的症状をおこさせて幼児は身体の発達に遅れを見せたり、反応を示さなくなったり、自分の殻の仲に引き込んでしまい『幼児性自閉症』といった心理的徴候を呈すこともある。11

児童精神科医 中島洋子氏によると、発達障害~脳の働き方の違いによって生じる障害は、以下の5つに分類12)されるという。

   自閉症

言葉の遅れを伴うコミュニケーションの障害、対人関係の問題、こだわりの3症状がセットで現われる。

   アスペルガー症候群

言語や知的発達に遅れがなく基本的コミュニケーションは可能だが、人の気持ちを理解し、状況に柔軟に対応するのが苦手。興味の幅が狭く繰り返し行動やこだわりも見られる。

   広汎性発達障害(PDD

自閉症やアスペラー症候群をはじめ、より軽症の関連症状を含んだ広い群。「自閉症スペクトラム障害」ともいう。症状が軽いため、発達障害である事に気づきにくい。

   注意欠陥・多動性障害(ADHD

集中力が乏しく不注意、動き回ってじっと座っていられない、順番を待つのが苦手で衝動的などの症状が、家や園などの複数の場面で見られる。

⑤ 学習障害(LD

知的発達の遅れはないが、読む、書く、計算する、話すなど、基本的な学習能力のいずれかに問題を抱える。多くは就学後に症状が明らかになる。

また、他に愛着の障害、対人関係の障害として「反応性愛着障害」「愛情遮断症」「被虐待児症候群」が挙げられる。「反応性愛着障害」とは5歳未満に始まり「愛着の絆」が十分に結べないと、人間の脳の、人の感情や表情を読み取る部分(前頭前野)が十分に育っていない、つまり未熟な脳であるため、人格形成の大切な部分に障害が起きる。「自分のイライラや不満を抑える力」に欠け、泣いたら泣きやまない、衝動に任せて走り回る、じっとしていられない、極端な好き嫌いや拒食症などの食べる事に問題を起こし、自分を傷つけたり、物を壊したりする。

「愛情遮断症(愛情剥奪症候群)とは、生後半年から6歳ぐらいまでの間に、母親の死亡や愛情の欠落によって、性格的な障害が残るものである。」13)症状は、感情を出さない、精神発達の遅れ、かんしゃく、周囲への無関心が挙げられる。家庭不和から、敏感な感受性をもつ幼児は言語の発達停止という形で診断名に「愛情遮断症」とつけられることもある。

被虐待児症候群」とは大阪府立母子保健総合医療センター成長発達科部長の小林美智子氏によるとストレスのための成長ホルモン分泌不全により、発達の遅れや学習能力の低下が起こり、それは発達刺激が不適切なためや、ストレスのために学習に集中できないことが原因。心身症情緒行動問題は、恐怖心や不安や慢性ストレスによって生じる。過大なストレスの原因に夫婦間の葛藤や不和も挙げている。

このように、様々な診断名があるが、いずれも、子どもの慢性的な緊張状態、安全基地を得られず不安定なまま脳が成長してしまった状態である事がわかる。

「平成14年に文部科学省が実施した全国実態調査では、小・中学校の通常の学級に在籍している児童生徒のうち、LDADHD・高機能自閉症により学習や生活の面で特別な教育的支援を必要としている児童生徒が約6パーセント程度の割合で存在する。」14)

これらの障害の原因が夫婦間の問題と関係する、しないという考えは、研究者達によって賛否労論の意見があるようである。緊張状態にある脳が未発達になってしまう事、両親のDVが子どもの脳の発達への影響を及ぼしている事を考慮すると、脳への影響として、夫婦間の問題も関与しているケースも見受けられるであろう。

また、実際に私がご相談を受けたケースにも、家庭不和から別居に至り、離れている親と突然逢えなくなってしまう小学生は、学校で荒れてしまう事が多かったり、妻が夫への怒りのストレスから子どもへ酷くあたってしまい、子どもが特定食べ物の依存症(四六時中離さず食べ続ける)になったり、盗癖等がついてしまった例もあり、行き場の無い家庭での怒りを学校など、家庭以外の場所で発散しているように見受けられます。

 

3章 子どもの視点からの離婚

 

離婚した親と子どもについての声を聞いた資料がある15調査の内容は、平成16年に社団法人 家庭問題情報センター主催、他弁護士や大学の教授、家庭裁判所の調停や訴訟時に関与した方々の協力を元に行われた。調査内容は、離婚を経験した親と親の離婚を経験した子どもで、親が101人,子どもが96人。親の年齢は3040代がほとんどで、 子どもの年齢は,1030代がほとんどであるが,70代,80代の人もいる。この調査では子どもが,成長過程で遭遇した親の離婚を,その時,その後どのように受けとめているのかが記載されている。

離婚の説明についての意見は27例あり,その内容は「親は離婚の説明をきちんと子どもにすべきである」ということに集約できる。 説明を受けなかった子どもだけではなく,説明を受けた子どもであっても,十分に説明がなされていないと感じる子どもは少なくないようだ。一方、親が十分説明してくれたと感じている人からは,「4歳の子にも離婚の理由を説明してくれた。子どもだからという理由で説明がなかったことはない。悩まずにすんでいる」(離婚時4歳,現在21) といった意見がでている。説明に対する子どもの反応は「何も言わなかった。」「『なぜ両親が一緒に暮らせないのか分からないし,私の知らないところで勝手に(私自身の転校を含めて)離婚することを決めたのは納得できない』ということを言おうとしたけど, 言葉にしようとすると涙が出てきてうまく言えなかった」(離婚時8歳,現在30)、「何も言えなかった。自分の気持ちが分からなかった。学校で平常心でいることだけで精一杯だった」(離婚時18歳,現在24)、「親を見ていて,意見や反論が言える状況ではなかったので,従うしかないと思った」 (離婚時12歳,現在35)。親の離婚に積極的に賛成した子どもは12(13%)ですが,いずれも父母の著しい不和,アルコール依存,暴力,借金などに子ども自身も悩んでいたことが回答からうかがわれる。

 

説明の有無に関しての私の意見は、説明の内容が重要というよりも、子どもが妥協できるよう、これからの事や、決断に至った理由など、子どもと十分に話す機会を設け、子どもを一人の人間として尊重してあげることが重要だと思う。

(1)離婚してプラス・マイナスになったこと 

プラスになったとの意見は、精神的に安定し(31),不安な表情が消え(13),自立心が芽生え強くなり(13),無理していた感じが取れ(8),チャレンジ精神が持てるようになり(3) 自尊心が出てきた(2),他者との関係では優しくなった(5)との意見があり、「母が殴られたりするのを見なくてすみ,安心して家に帰ることができるようになった」というように, 家庭が安全で安心な場所になったことを挙げている。また,自分自身については「頑張った」,「強くなった」と述べ,「『離婚家庭の子ども』と後ろ指を指されないように」, 「母親に心配かけないように」と,逆境を乗り越えようと努めている姿が浮かぶ。他者との関係では「人の痛みや優しさを感じ取り,分かるようになった」との意見が挙げられている。

離婚するまで,子どもたちは父母の険悪な関係に巻き込まれ,無理をしていたのが,離婚により解放され,母子,父子関係が安定した結果でしょう。人としての生き方や生き様,在り様について考えるようになったと述べ,人として成長する体験として受けとめている。

一方、マイナスになったとの意見は、友人・対人関係については,人間不信になる(4),大人に依存的になる(2),両親が傍にいられない(15),経済的に苦しい(5),育児が放任傾向になる(5)。心身に反応が出たケースでは、知らなかった、聞きたくなかったと言い、心因性の聴覚障害が発症、遺尿、夜尿などの退行現象が生じた(8歳女),父親の異性関係を知り、友達の父を避けたり、TVの家族のシーンが出るとTVを消したり、「父」というものに過剰な逃避反応を示し、チック症状や吃音も現われた(3歳女),知っていたよと表面的に答えたが、1年間喘息症状が続いた(11歳男),食べず、しゃべらず、その後学校へ行けなくなった(3歳男)との意見も出ている。

親の離婚によるマイナスとして,不安・孤独・寂しさに苦しみ,苦しむ自分を責めて自己嫌悪に悩み,被害感に悩んでいることなどが多く述べられています。

離婚後は両親の険悪な関係に巻き込まれなくなったものの,一人親となり,親は仕事などが多忙となって,子どもに十分関われず,やや放任傾向になるとき,親の方も, 両親が傍にいてやれないという罪悪感を持ってしまいがちです。別居した親の親戚との付き合いがなくなるなど,付き合いの範囲が狭くなっていく様子もうかがえる。

(2)子どもは親の離婚をどのように受けとめているか

 離婚についての考え方が,離婚時と現在ではどのように変化しているかを比較すると,離婚当時は「離婚してほしくなかった」,「分からない」が合わせて49%であったのが, 現在では27%に減少し,現在の心境として「離婚は仕方なかった」,「離婚してよかった」と,離婚を受け入れ,肯定している子どもは66%に達しています。

 この変化は,離婚当時のショック,これからどうなるのかという不安な状態から,年月を経て家庭状況の変化や新しい環境にも適応し,善し悪しは別として,現実を受け入れていこうとする気持ちの整理によるものであると推測される。
 96人の子どものうち, 70(73%)が母親と暮らしており、離婚した父親・母親に何を求め,何をしてほしかったのかを見てみる。
 父親に求めていることは、養育費,学費など金銭的援助19人(20%)、面会交流など離婚後の関わり15人(16%)、愛してほしかった11人(11%)となっており、 母親に求めていることは、今のままで十分 15人(17%)、母親の生き方,在り様〈しっかりして・投げやりなことを言わないで・子どもに罪悪感を持たないでなど〉13人( 14%)、愛情,優しくして10人(10%)、その他が48人(50%)である。

(4)子どもは親の離婚をどのように乗り越えてきたか

 子どもたちは,先に見た離婚のマイナス面をどのように乗り越えてきたかの問いに対して、自分で解決してきた(自分に言い聞かせた・胸の中に納めるようにした・日記を書いた・思いっきり泣いたなど)35人(36%)、同じ環境の友達と話した15(16%) と答えている。

 子どもは,離婚直後に味あわされる不安,孤独,寂しさ,自己嫌悪などに悩みながらも,自分をみつめ,頑張り,しだいに自分で解決していく力をつけ,社会経験を積むうちに, やがて離婚は仕方がなかったのだと自分に言い聞かせながら,逆境を乗り越えていこうとするしなやかさも持っています。離婚経験の子どもから親が離婚しようとしている子へのアドバイスとして、自分自身については「自分を卑下しない。一つの経験,ステップ,バネとして成長してほしい。自分の気持ちを大切にし,しっかり考え,強くなってほしい。 自分の力を信じて,プラス志向で頑張ってほしい」、離婚については、「親の離婚は恥ずかしいことではない。離婚は親の問題であって子どもは悪くない。別れた方がいいこともある。いろいろな家庭,いろいろな人生があることを考えてほしい」、親については「離婚しても父親・母親であることは変わらない。親を恨む気持ちが出てくるだろうが,親を信じて乗り切ってほしい。親には親の人生があることを分かって。 たとえ受け入れられなくても,粘り強く自分の意見や不満は親に伝えた方がいい」と述べている。

 このように、時間の経過とともに、現実を自分なりに肯定的に受け止めて前進できる子どももいれば、否定的な感情から抜け出せず不適応に陥る子もいる。この違いは、離婚に至るまでの親子関係と、離婚後の環境によるものと考えられる。

 

第4章 今後の課題

同じ出来事に遭遇しても、トラウマとしてストレス障害を起こす人と起こさない人がいる。その人の遺伝でもらい受けた体質や成育環境で安定した愛着の絆を保護者(母や父またはその代理人)と結べた人たちはトラウマ的な出来事にあっても、トラウマを跳ね返して、前向きに生きていかれて、ストレス障害になる割合が低いと言われ、これをトラウマに対する「弾力性」と言う。反対に幼児のときに虐待などを受けた人は、よくくっつく鍋のようにトラウマ的出来事が蓄積してPTSDになりやすく、よく「心が弱い」などと批判されがちのようである。従って、私達保護者としての役割は、子どもをあらゆるトラウマ的出来事から守ることではなく、子どもの「弾力性」を増し、社会生活に順応できる人に育てることである。

就学前の時期には、子どもの家庭環境がその生活に重要な影響を与えていたが、学校に入ると、別の影響も重要になってくる。知的能力や社会基準へ同調するように要求され、子どもは成長するにつれ、自分の家庭環境と仲間の友達のそれと比較し始める。自分の生活経験に客観的になってくると、親の説明や決定を受け入れる事も少なくなり、「ぼくの両親はなんでも知っている」という信念から「ぼくの両親はなんにもしらない」という青年期の信念に移動する。すべての子どもが、自分の周りの世界と関連づけて自分のことを考え始めるこの時期に、一人親家庭の子どもは自分の関係を認めて統合をはからなければならない。そして、青年期には、受動的に生きてきたこれまでの生き方や考え方を変え、自我を主体的なものへと再編成する時期である。子ども自身が自分の能力を開発する必要性と、親が子どもの安全と幸せを確保する必要性とのバランスをとる能力が求められる。どちらの方向に引く力も非常に大きい。子どもが身につけるべき事は、自我の強さである。

では、自我の強さとはどういったものだろうか?

自我がどの程度機能しているか、実際にどのような点から評価が可能か、小此木氏による精神分析的な立場によった自我機能の評価16うち、パーソナリティの健康さや、適応という意味での自我機能を扱う4項目を挙げる。

(1)自我の自律性

不安やストレスがあってもそれに巻き込まれることなしに、行動することのできる力。例えば、父母が不和で家庭内の葛藤が深刻な場合に、それでも自分の登校や勉学の機能は保ち続けることの可能な場合と、巻き込まれて勉学や登校が困難になる場合とがあるとすると、前者が自律性の保たれた状態である。

(2)自我の弾力性

パーソナリティが情緒豊かに、弾力的かつ柔軟に動いているのか。現実に適応しながら、豊かにものごとを感じられる力や創造性を発揮できる力をもつことができ、コントロールができる。また、不安や葛藤に巻き込まれる事があっても、現実に戻ることができる力。

(3)自我の統合機能

社会的・心理的にその人が一貫性を保っていることや、同じ相手に対してもつであろう矛盾するさまざまな気持ちに耐えながらなんとか自分のまとまりを保つ事ができること。前者は自我アイデンティティを保つこととも表現でき、いろいろな「~としての自分」を適切に共存させているかどうかも示すもの。

(4)支配・達成

社会に適応するためのさまざまな役割をきちんと継続的に達成することができるかどうかがこの能力である。例えばこれは対人接触が極端に苦手で、集団や組織への適応の難しい場合でも、ある程度この機能が高水準を保つ事が可能な場合には、それなりの社会生活を営む事が可能な場合もある。

青年期の危機の程度を規定する要因を大きく分けると、不安や葛藤や挫折をもたらしやすい青年自身の内的な要因と、これを克服する方向に作用するさまざまな要因とが考えられる。前者は本人の持つ内的不安・葛藤・心理的傷つきやすさ、両親やそれに変わる人との関係の希薄さなどである。また、個人の感受性の高さや内省力、向上心の強さなどもこの内的な要因に含まれる。一方後者としては、その個人を支援する個人的社会的な条件が重要である。個人的というのは個人が直接利用可能な環境条件のことで、物理的な条件や就職の機会なども含む。また、社会的条件としては、家族や友人や仲間からの指示などを示している。

 

終わりに

しばし私は相談者に「子どものためには我慢してこのまま婚姻を続けた方がよいのでしょうか?」という質問を受ける事がある。子への影響としては、離婚が即、悪影響を及ぼすのではなく、離婚までにいたる家族解体の中ですでに作られていると考えられる。夫婦論争から、子どもの不安感、家庭内での安全基地の欠如等、子どもに心理的な負担が大きくなり、その結果、非行や、情緒などの発達延滞や自閉的行動など種々の障害を引き起こす危険があげられ、就学児への影響は主に身体的影響が多く、続いて小学生、中学生になると非行的影響が高かった。青年期になると今までの価値観の再編成がおこり、過去の負の要因を自分でうけとめて今後の課題として前向きに進めるか、それとも自分を見失い、乗り越えられず不適応に陥ってしまうかのどちらかとなる。子どもの不安な気持ちが不健全な成長へ繋がり易いため、子どもが妥協できる方向付けを子どもの年齢に合わせて親達が示す事が望ましい。

子どものためにだけに我慢をして冷え切った婚姻生活を続ける事が子どものためになるかと言えば、NOだと思う。しかし、別れた方が子どものためになるという単純な問題ではない。無秩序な家族解体の中で育つよりは調和のとれた片親家庭で育つことの方が子どもの心は安定するので健全な成長が期待できるのではないか。しかし、離婚をして誰しもが調和のとれた家庭を作れるわけではない。世話をする側が問題を抱え、その問題に手詰まりな状態になっていては、子どものケアどころではない。離婚後に親が笑顔でいれる環境が作れるか、子どもの視点で物事を理解し、受け止め、調和のとれた子どもとの環境が用意できるかどうかが重要である。親が離婚をしっかり受け止めて、子どもに解かるように話し、その後の生活を築いてゆく姿勢にあるときには、子どもはきちんとそれを理解していく。要は、親がどのような生き方、あり方を子どもと共に築くかという姿勢如何が影響の好悪につながるのであろう。

夫婦とは合わせ鏡のようになってくるので、夫婦の危機を感じたら、まず、自己を振り返り、相手を思いやるお互いの努力が日々必要である。壊れた夫婦関係を元に戻すことは容易な事ではないので、日々、車と一緒で壊れないようなメンテナンス、歩み寄る努力が必要で、育児に一番必要な心の安定を保ち続けて欲しい。

 

引用 文献 

1) ヘネシー・澄子:子を愛せない母、母を拒絶する子,p36(株)学習研究所,東京,2004

2) 厚生労働省:人口動態統計年間推移 2010.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei10/index.html

3) 厚生労働省: 11 人口動態社会経済面調査からみた離婚(平成9年度調査).http://www1.mhlw.go.jp/toukei/rikon_8/repo11.html,2010,5,31

4)「乱の春負けるなSP 漂流少女のある決心」テレビ朝日,テレビ朝日,2011/4/9,23:0024:00放送

5)ジョエル・Dブロック/スーザン・S・バーテル:パパ、ママぼくを巻き込まないで!p.2,旭屋出版,東京,2004.

6) 長谷川重夫: 離婚と子どもの人権「養護施設児童の人権と親の離婚についての調査報告」, p.p2627,全国社会福祉協議会養護施設協議会,東京,1993

7) 長谷川重夫: 離婚と子どもの人権「離婚によって子どもに与えられた悪影響と思えるもの」,p.p2627, 全国社会福祉協議会養護施設協議会,東京,1993

8)読売新聞(朝刊),201042,「両親のDV目撃 脳に悪影響」,p3

9)僕もパパになる?奥さんの妊娠がわかったら, 公益財団法人 資生堂社会福祉事業財団《http://www.hugly-lovely.jp/papanote/papa_note02.php,2011,5,30

10) ヘネシー・澄子:気になる子 理解できる ケアできる,p74, (株)学習研究所,東京,2006

11) I.R.スチュアート,L.E.アブト:離婚・別居の家族と子ども,p211,家政教育者,東京,1975

12)中島洋子:発達障害って何?子どもの様子が気になったら.園児とママの情報誌あんふぁん,埼玉版,3月号,p5,埼玉,2011

13)愛情遮断症(愛情剥奪症候群),j-Madicali医学辞典,http://www.j-medical.net/sick/archives/2005/06/post_789.html,2011,5,30

14) 1 障害のある幼児児童生徒に対する教育の現状と課題, 厚生労働省,http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120801/002.htm,2011,5,30

15)社団法人 家庭問題情報センター:「離婚した親と子どもの声を聞く」『養育環境の変化と子どもの成長に関する調査研究』,77,pp4-6,2004

16) 中野博子:青年期心理学.p92,人間総合科学大学,埼玉2006

 

参考文献

ヘネシー・澄子:子を愛せない母、母を拒絶する子,(株)学習研究所,東京,2004

ジョエル・Dブロック/スーザン・S・バーテル:パパ、ママぼくを巻き込まないで!,旭屋出版,東京,2004.

I.R.スチュアート,L.E.アブト:離婚・別居の家族と子ども,家政教育者,東京,1975

澤口俊之:「私」は脳のどこにいるのか,5,筑間書房,2002

被虐待児症候群」『家庭の医学』,NTTレゾナント《http://health.goo.ne.jp/medical/search/101H0200.html2011,5,30

ヘネシー・澄子:気になる子 理解できる ケアできる,(株)学習研究所,東京,2006

中野博子:青年期心理学,人間総合科学大学,埼玉2006